「これくらいのツール、自分たちで内製できるんじゃないか?」
技術力の高い組織であればあるほど、そう考えるのは自然なことです。実際、貴社のスキルセットであれば、機能自体を実装することは十分に可能でしょう。また、社内の内製ツールのオンコール・インシデント対応をするモチベーションとリソースを継続して確保できる組織体制があれば可能です。
しかし、ここで議論したいのは「技術的に可能か」ではなく、「その貴重なエンジニアの才能を、どこに投下するのが最も組織のためになるか」という点です。
「差別化を生む業務」か、「そうでない業務」か
結論から申し上げれば、インシデント対応ツールの内製化は、プロダクトの差別化要素にはなりません。
貴社が多額の採用コストをかけて優秀なエンジニアを採用したのは、顧客に新しい価値を届け、競合を突き放し、売上を上げるプロダクトを作るためにチームを構築したはずです。社内ツールをどれだけ作り込んでも、それが顧客にとっての購入理由になることはありません。
「非差別化領域」の苦労は専門家にアウトソースし、自社のエンジニアを100%「勝負所」へ解放する。 これこそがSaaS導入の真のROIです。
インシデント対応ツールに求められる「過酷な」要件
インシデント対応ツールは、平時に使うツールとは全く異なる「ミッションクリティカル性」が求められます。
- 究極の耐障害性:自社の基幹システムがダウンしている最中に、インシデント対応ツールが生きていなければ意味がありません。自社のインフラ(K8s等)に同居させて内製すると、共倒れのリスクがあります。
- エンタープライズ級のセキュリティ:社内の機密情報や障害ログを扱うため、SOC2等の国際規格に準拠したガバナンスと、ゼロデイ攻撃への即時対応が不可欠です。
- LLMの進化への追従:単なるLLMのラッパーではなく、日々進化するモデルやRAG(検索拡張生成)技術を、高速かつ安定的にアップデートし続ける必要があります。
Incident Lakeを支える「SIGQ」の尖ったスタック
Incident Lakeを開発するSIGQでは、これらの要件を満たすために、一般的な企業が「内製ツール」にかけるリソースを遥かに凌駕する投資を行っています。
- 技術スタックの多様性:PostgreSQLを核としつつ、ValkeyやClickhouseを用途別に合わせてチューニングしています。加えて、コンピュートレイヤーではGKE(Google Kubernetes Engine)上で、DatadogやRollbarを用いた24時間365日の死活・エラー監視体制を構築しています。
- 圧倒的な改善速度:週に2万〜5万行という膨大なコードベースの更新を、SOC2 Type1取得済みのセキュアなパイプラインで安定的にデリバリーしています。
これは、「ミッションクリティカルな大規模サービスを運営する企業」と同等のインフラ投資と監視体制です。これだけの環境を内製で維持しようとすれば、それだけで莫大な固定費が発生します。
「内製」に潜む隠れたコストとリスク
では、具体的に「内製」した場合のコストをシミュレーションしてみましょう。
1. 開発と運用の「人件費」
年収800万円のエンジニア2名が3ヶ月かけてツールを作ると、社保等を含めた人件費は約520万円。さらに、その後のメンテナンスに工数の20%を割くと、月額約35万円が恒久的に発生します。また、その年収800万円のエンジニアを採用するために支払った多額の採用関連費も、実質的なコストに含まれます。つまり、内製ツールを開発した場合、初年度で1000万円程度の開発コストがかかります。
2. インフラと監視の「実費」と運用負荷
最新のベクトル検索DBやマネージドデータベース、監視ツールを組み合わせると、インフラコストだけで月額50万円を超えることは過剰ではなく普通です。 加えて、運用体制の問題があります。一般的な内製ツールは「手隙の際に直す」運用で済みますが、インシデント対応ツールは「いつ起きるかわからない自社の障害」に備え、ツール自体の障害対応ローテーションも組む必要があります。 もし対応が遅れれば、本来のフローと別経路のフローが混在し、現場の混乱はさらに深刻化します。さらに、その内製ツールをメンテナンスしていたエンジニアが退職した後には、メンテナンスが放置されることもあるあるです。
3. 機会損失という最大のコスト
人件費とインフラ費を合わせると、初年度で2000万円弱かかります。しかし、本質的な機会損失は金額そのものではなく、「そのエンジニアが本来生み出すべきだった、顧客への新たな価値提供(本業のプロダクト開発)」が止まってしまうことです。 自社のエンジニアに、社内ツールのメンテナンスという「裏方の苦労」を背負わせてしまうのは、エンジニアキャリアの観点からも、経営戦略の観点からも、非常にもったいない投資になってしまいます。
餅は餅屋、インシデント対応は「外部の専用ツール」へ
内製ツールは、往々にして「作って動く」までがゴールになりがちです。しかし、ツールの真の価値は、障害が起きたその瞬間に、最新のセキュリティと最高のパフォーマンスで動作し続けることにあります。
自社インフラと運命を共にしない独立した強固なプラットフォームを、外部のリソースによる24時間の監視付きで利用できる。
SIGQでは、その安心感と、エンジニアが本業に集中できる環境を「月額コスト」で手に入れることは単なるツールの購入ではなく、「組織の回復力(レジリエンス)」と「攻めの開発リソース」を同時に買う経営判断だと考えています。